ドローンサッカーの機体づくりで、いちばん悩ましいパーツのひとつがモーターです。シンガポールのドローンサッカー団体 Drone Soccer Singapore が公開した記事のなかで、T-MOTOR F1404 と T-MOTOR Velox V1507 の2機種が「ドローンサッカーに適した選択肢」として挙げられていました。
ただ、その記事ではスペックの根拠までは触れられていません。そこで本記事では、メーカー公式および主要販売サイトの公表値をもとに、この2つのモーターが何がどう違うのか、そしてなぜ FAI F9A-B(20cmクラス)に向いているのかを、数値で検証していきます。
前提:F9A-B(20cmクラス)のレギュレーションを確認する
モーターを比較する前に、そもそも競技ルールがどんな制約を課しているのかを押さえておきましょう。FAI Sporting Code Section 4 Volume F9(2026年版)では、F9A-Bサブクラスについて次のように定められています。
- 球体(保護フレーム)の直径:20cm +2cm(=直径22cmの円に収まること)
- 最大重量:300g(フレーム・飛行機材すべて含む)
- バッテリー:最大4S(最大電圧17V)
- プロペラ直径:最大3インチ(7.6cm)
- モーター数:電動モーター最大4基
参考までに、F9A-A(40cmクラス)は最大1.2kg・6S・6インチプロペラなので、F9A-Bは「重量300g・4S・3インチ」という、かなりタイトな箱のなかで戦う競技だとわかります。
この3つの制約が、そのままモーター選びの評価軸になります。①4基ぶんの重量が300gの予算にどれだけ食い込むか、②4Sで使えるKV設定があるか、③3インチプロペラを回すのに適した特性か——この観点で2機種を見ていきます。
スペック一覧:F1404 と V1507
メーカー公式(T-MOTOR / T-HOBBY)および GetFPV・Pyrodrone の公表値をまとめると、次のようになります。
T-MOTOR F1404
- ステーターサイズ:1404(14mm径 × 4mm厚)
- 外形寸法:Φ17.9 × 16.6mm
- 巻線構成:9N12P
- 重量(ケーブル込み):9.34g
- KVラインナップ:2900KV / 3800KV / 4600KV
- 対応セル数:2900KV は 4〜6S / 3800KV・4600KV は 3〜4S
- 内部抵抗:310mΩ(2900KV)/ 195mΩ(3800KV)/ 138mΩ(4600KV)
- 最大出力:262W / 304W / 316W(60秒定格)
- ピーク電流:10.45A / 19A / 20A(60秒定格)
- 最大推力:公式スペック表に記載なし
- シャフト:1.5mm のみ
- 推奨プロペラ:3〜4インチ
- 参考価格:US$14.90(公式)/国内 約¥3,366
T-MOTOR Velox V1507
- ステーターサイズ:1507(15mm径 × 7mm厚)
- 外形寸法:Φ18.9 × 19.8mm(1.5mm軸)/ Φ18.9 × 27.9mm(5mm軸)
- 巻線構成:12N14P
- 重量(ケーブル込み):14.8g(1.5mm軸版)/ 15.4g(5mm軸版)
- KVラインナップ:2700KV / 4100KV
- 対応セル数:2700KV は 6S / 4100KV は 4S
- 内部抵抗:142mΩ(2700KV)/ 70mΩ(4100KV)
- 最大出力:493W(2700KV)/ 530W(4100KV)※1秒定格
- ピーク電流:22.5A(2700KV)/ 34A(4100KV)※1秒定格
- 最大推力:869g(2700KV)/ 858g(4100KV)
- シャフト:1.5mm シャフトレス と 5mm 軸の2種類
- 推奨プロペラ:3〜4インチ(T76S等の高ピッチ3インチ推奨)
- 参考価格:US$19.50〜23.99
※出力・電流の定格時間が両者で異なります(F1404は60秒、V1507は1秒)。この2つの数値を横並びで「V1507のほうが1.7倍パワフル」と読むのは誤りです。測定条件が違う値なので、あくまで「そのモーターが許容する上限の目安」として別々に見てください。
F9A-Bで決定的な差が出る4項目
- 重量(1個あたり)
- F1404:9.34g(4基で 37.4g)
- V1507:14.8g/15.4g(4基で 59.2g/61.6g)
- 4Sで使えるKV
- F1404:3800KV・4600KV
- V1507:4100KVのみ(2700KVは6S専用)
- 内部抵抗(4S運用時)
- F1404 4600KV:138mΩ
- V1507 4100KV:70mΩ(約半分)
- シャフト規格
- F1404:1.5mm のみ
- V1507:1.5mm と 5mm の2種類から選択
違い①【最重要】:モーター自体の重量 ─ 4基で約24gの差
F9A-Bのモーター選びで、最終的にいちばん効いてくるのは「モーターそのものの重量」です。推力もトルクも耐久性も大事ですが、それらは300gの上限に収まって初めて意味を持つ数字だからです。まずここから判断してください。
4基搭載した場合の合計重量を計算すると——
- F1404 × 4基 = 約37.4g
- V1507(1.5mm軸版)× 4基 = 約59.2g
- V1507(5mm軸版)× 4基 = 約61.6g
差は約22〜24g。全備重量300g制限に対しておよそ7〜8%にあたります。24gというのは、バッテリーを1サイズ大きくできるか、保護フレームのカーボン骨を太くできるか、あるいはLEDやレシーバーの余裕になるかという、設計上かなり大きな判断材料です。
実際、F9A-B適合機として紹介される機体は、フランス・FFAMのドローンサッカー部門の紹介によればバッテリー込み180g(HelicoRacing)〜241g(TIKE ARF)あたりに収まっており、300gまでの余白はそれほど大きくありません。軽さを最優先するならF1404が明確に有利です。
なお、V1507を選ぶ場合でも1.5mm軸版のほうが5mm軸版より1個あたり0.6g軽い(14.8g vs 15.4g)ため、4基で2.4gの差が出ます。後述するプロペラ互換の観点と合わせて、F9A-Bでは1.5mm軸版のほうが順当な選択です。
違い②:ステーター厚とトルク特性 ─ 1404は「回転」、1507は「粘り」
ステーターは F1404 が 14mm径×4mm厚、V1507 が 15mm径×7mm厚。厚みが4mmと7mmでほぼ1.75倍違います。ステーターの体積は発生できるトルクにほぼ比例するため、V1507のほうが低回転域から太いトルクを出せる設計です。
ドローンサッカーは、直進で速度を伸ばすFPVレースとは要求が違います。ゴールリングを狙って急加速し、接触してすぐ姿勢を立て直し、また加速する——という、加減速の連続が競技の中身です。ここで効くのは最高速ではなくスロットルを開けた瞬間の立ち上がり、つまりトルクです。
一方でF1404は9N12P・薄型ステーターでローターの慣性が小さく、レスポンスが軽いという別種の速さを持ちます。細かい姿勢修正を高頻度で当てるような飛ばし方とは相性がよい構成です。
違い③:内部抵抗と発熱 ─ 連続戦を戦えるのはどちらか
4S運用で比較すると、内部抵抗は F1404 4600KV が138mΩ、V1507 4100KV が70mΩと、およそ半分です。内部抵抗が低いほど銅損(熱として捨てられる電力)が小さく、大電流を流したときの発熱と効率低下が抑えられます。
V1507はさらに、12N14P構成による電磁設計と放熱の最適化で、従来のF1507比で連続高速飛行時に約20℃(24%)低温になるとメーカーが公表しています。ドローンサッカーは1日に何試合も連続でこなす競技で、しかもボール同士がぶつかり合ってスロットルを叩き続ける時間が長い。熱ダレへの耐性は、後半の試合ほど効いてきます。
違い④:耐久性とメンテナンス性 ─ 接触競技という前提
V1507は大型ベアリング+Oリングシールによるダブル保護と、M2ロックネジによるメンテナンス性向上を売りにしています。ドローンサッカーはフレーム越しとはいえ機体同士が全力で衝突する競技で、ベアリングへの衝撃と、削れたカーボン粉・体育館のホコリの侵入は避けられません。シール付きベアリングの価値は、FPVフリースタイル以上に大きいと言えます。
逆にF1404は、1個あたり約¥3,366(US$14.90)という価格が武器です。V1507(US$19.50〜23.99)とは1個あたり数百円〜千円強の差ですが、4基×複数機分ともなれば効いてきます。「守って長く使う」V1507か、「消耗品と割り切って早めに交換する」F1404か——チームの運用方針で答えが変わる部分です。
違い⑤:KV選択とシャフト規格 ─ 買う前に必ず確認すべき2点
ここは実務上のいちばんの落とし穴なので、独立した項目にしておきます。
KVは「4S対応」のものを選ぶ
F9A-Bは4Sまでです。したがって——
- F1404:3〜4S対応の 3800KV / 4600KV が候補。2900KVは4〜6S向けで、4Sで回すと回転が低めに寄ります。
- V1507:4100KV(4S版)が候補。2700KVは6S前提なので、F9A-Bでは事実上選択肢に入りません。
「V1507を買ったが6S版だった」というミスは実際に起こり得ます。4S版=4100KV、と覚えておいてください。
V1507は軸が2種類ある ─ プロペラに合わせて選ぶ
V1507のいちばんの特徴は、プロペラを固定する軸が2種類用意されている点です。メーカー公式(T-HOBBY)でも「1.5mm shaftless と 5mm single shaft から選べる」と明記されています。
- 1.5mm シャフトレス(販売名の例:V1507 1.5)
- 重量:14.8g
- 合うプロペラ:軸穴1.5mmの3インチプロペラ(ドローンサッカー用の主流)
- 5mm 軸(販売名の例:V1507 M5)
- 重量:15.4g
- 合うプロペラ:5mm穴/Tマウント系のプロペラ
スペック(KV・内部抵抗70mΩ・最大推力858g・530W)はどちらも同一で、違うのは軸規格と重量だけです。つまり「使うプロペラに合わせて導入する」のが正解で、性能で悩む必要はありません。
一方のF1404は1.5mmシャフトのみで、選択の余地はありません。ドローンサッカー用の3インチプロペラは軸穴1.5mmの製品が主流なので、両者を併用したり、あとからモーターだけ載せ替えたりする可能性があるなら、V1507も1.5mm軸版で揃えておくとプロペラ在庫を共通化できます。逆に、5mm軸版を誤って買うとプロペラごと買い直しになりかねません。発注前に必ず手持ちのプロペラの軸穴を確認してください。
結局、どちらを選ぶべきか
- 300g制限がギリギリ/機体を軽く仕上げたい → F1404(3800 or 4600KV)
- 4基で約37g。バッテリーやフレームに重量を回せる
- 初期費用を抑えたい/交換頻度が高い → F1404
- 1個約¥3,366。国内在庫も入手しやすい
- ストライカー機で押し勝ちたい → V1507(4100KV)
- ステーター厚7mm由来のトルクと最大推力858g
- 1日に何試合も連戦する大会運用 → V1507(4100KV)
- 内部抵抗70mΩ+放熱設計で熱ダレに強い
- 体育館・屋外で機材を酷使する → V1507(4100KV)
- Oリングシール付き大型ベアリング
ざっくり言えば、F1404は「軽さとコストで戦う」設計、V1507は「トルクと耐久で戦う」設計です。同じチームでも、ストライカー機にはV1507、ディフェンダー機にはF1404といった使い分けは十分に成立します。どちらが上位互換という関係ではありません。
入手性について(2026年8月時点)
F1404は国内でも比較的入手しやすく、Amazon.co.jpのほか、DAYSCAPE(約¥3,366)などのFPVショップで扱いがあります。
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一方V1507は、国内での入手性が明確に落ちます。調べた範囲では国内FPVショップの常時在庫は確認できず、F1507(前世代)は国内にあってもV1507は個別取り寄せ扱いという状況です。
そしてAmazon Japanでは、V1507であることが写真で明確に確認できる出品が見当たりません。型番だけが書かれていて実物写真が別物、あるいは軸タイプ(1.5mm/5mm)がどちらなのか判別できない出品が多く、「届いたら5mm軸版だった」という事故が起きやすい買い方です。前述のとおりV1507は軸が2種類あるため、ここは特に注意が必要なポイントです。
したがって現状は、AliExpressのT-HOBBY(T-MOTOR公式ブランド)出品か、GetFPV・Pyrodroneといった海外FPVショップから、KV(4100KV=4S版)と軸タイプ(1.5mm/5mm)を明示している商品ページを選んで買うのが確実です。いずれも国際発送になるため、大会に合わせて調達するなら納期を早めに見込んでおいてください。
まとめ
Drone Soccer Singapore が F1404 と V1507 を「ドローンサッカー向き」として挙げた理由は、スペックを並べてみると腑に落ちます。どちらも3インチプロペラ対応・4S対応のKV設定があり、20cm球のフレームに収まるサイズ——つまりF9A-Bの「300g・4S・3インチ」という箱に、そもそも設計として収まる数少ないクラスのモーターだからです。
そのうえで、F1404は9.34gという軽さと約¥3,366という価格、V1507は7mmステーターのトルク・70mΩの低抵抗・シール付き大型ベアリング、そして軸を2種類から選べる柔軟性という、はっきり異なる強みを持っています。
最後に、F9A-Bで判断に迷ったときの優先順位をもう一度整理しておきます。
- モーター自体の重量(4基で22〜24gの差=300g制限の7〜8%)
- 4S対応のKVがあるか(F1404は3800/4600KV、V1507は4100KV)
- 手持ちのプロペラに合う軸か(V1507は1.5mm/5mmの2種類、F1404は1.5mmのみ)
- トルク・耐熱・耐久性(連戦する大会運用なら重み増)
2027年のFAI世界ドローンサッカー選手権(米国開催)に向けて、自分たちの機体が「軽さ」と「粘り」のどちらを必要としているのかを言語化しておくことが、パーツ選定の近道になりそうです。
出典・参考リンク
- 本記事のきっかけとなった記事:Drone Soccer Singapore「A Singapore Grand Prix Shirt Leads to an Unexpected Story at the Silver Drone Soccer Tournament」(F1404・V1507をドローンサッカー向けとして紹介)
- 競技規定:FAI Sporting Code Section 4 – Aeromodelling, Volume F9 Drone Sports(2026年版・PDF)(F9A-B:20cm+2cm/300g/4S・17V/3インチ)
- F1404 公式スペック:T-HOBBY(T-MOTOR公式ストア)F1404 製品ページ(9.34g/9N12P/Φ17.9×16.6mm/内部抵抗・最大出力・ピーク電流)
- V1507 公式スペック:T-HOBBY(T-MOTOR公式ストア)V1507 製品ページ(12N14P/F1507比20℃・24%低温/大型ベアリング+Oリングシール/4S・6Sデュアル/軸2種類)
- V1507 4100KV 詳細スペック:GetFPV – T-Motor Velox V1507 4S 4100KV 5mm Shaft(15.4g/70mΩ/最大推力858g/530W/34A)
- V1507 2700KV 詳細スペック:GetFPV – T-Motor Velox V1507 6S 2700KV 1.5mm Shaft(14.8g/142mΩ/最大推力869g/493W)
- V1507 軸タイプ別スペック:Pyrodrone – T-Motor V1507 1.5(1.5mm軸)4S 4100KV(14.8g/US$23.99)/Pyrodrone – T-Motor V1507 M5(5mm軸)4S 4100KV(15.4g/US$23.99)
- V1507 海外通販(軸・KV明記の出品例):AliExpress – T-HOBBY T-MOTOR VELOX V1507 3inch(1.5mm/5mm Shaft・4S/6S)
- F1404 国内価格:DAYSCAPE – T-Motor F1404(KV 2900/3800/4600)(¥3,366)
- F9A-B適合機の重量例:FFAM Drone Soccer「Quels drones choisir pour la catégorie F9A-B (20 cm) ?」(HelicoRacing 180g/TIKE ARF 241g など)
※スペック・価格はいずれも2026年8月16日時点で各サイトが公表している値です。仕様変更・価格改定の可能性があるため、購入前に必ず販売元でご確認ください。
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